「公」の問題を「民」の責任にする仕組み

2021年9月28日付のつくろい東京ファンド・稲葉剛さんの記事。
稲葉剛さんと桜井啓太・立命館大学教授が、中野区による生活保護ケースワーク外部委託問題を皮切りにNPOと行政の関係性について論じています。

[57]「NPOの方が良質の支援ができる」の落とし穴~生活保護ケースワーク外部委託問題から考える - 稲葉剛|論座アーカイブ
 一人の高齢者が自らの受けた不当な扱いに声をあげたことがきっかけとなり、自治体が長年、続けてきた違法性の高い事業の問題点が明るみに出た。それは、今まさに国が検討を進めている制度変更の議論にも影響を与え

この記事には様々な論点があって、どれも重要なテーマなのですが、私は特に「『公』の問題を『民』の責任に転嫁すること」の問題性を感じました。
記事は生活保護行政の話ですが、実はこれは外国人分野でも行われようとしていました。

2021年5月、入管法改定案が取り下げられ、廃案になることが確定しました。

入管法改正案が廃案へ、「人権侵害」と野党や国内外から批判
在留外国人の収容や送還の規則を見直す入管法改正案を巡り、野党の反対や国内外の批判を受け、政府は18日、今国会での成立を断念、法案を取り下げて廃案にすることを決めた。

この廃案になった入管法改定案。そこでは「監理措置」という仕組みが検討されていました。これは親族や支援者が「監理人」となり入管収容者が入管施設外で生活できる仕組みでした。しかし、監理人が報告しなかった場合などに罰則が設けられていました。

入管法改正案、山積みの課題とは? 難民申請3回以上は送還可能に...申請者「命の心配をせずに暮らしたいだけ」:東京新聞 TOKYO Web
外国人の収容や強制送還ルールを見直す衆院法務委員会で審議中の入管難民法改正案に対し、外国人収容者の人権を侵害する懸念が広がっている。3...


監理人が生活の面倒をみて、かつ、それを逐一入管に報告し、報告しなかったから再収容したり罰を与えたりする。ここに入管の責任性は全くありません
これは、本来であれば、入管が収容を解かれた者の生活などの責任を持たなければならないのにも関わらず、それを法的に民間の支援者の責任にしてしまうという悪法でした。「民間の支援者が責任をもって本人の支援をすること=入管は支援しない」「民間の支援者がそれを守れないなら再収容する・罰を与える」「入管は法に従って動いているだけだ」ということが可能となっていたのです。
ちなみに、2021年6月25日、上川陽子法務大臣は記者会見の場で、「仮放免中の外国人に生活上や健康上の問題がある場合には,所轄の地方入管等に連絡・相談をいただければ,個別に適切な対応を検討することとしている」と述べています。現実、入管は適切な対応をしてはいませんが、建前上は、責任は「公」にあることが明らかです。

法務省:法務大臣閣議後記者会見の概要

改訂入管法案は廃案になったので良かったですが、これと同根のことが中野区で行われていました。きっと多くの分野での同様のことが起きているのだと思います。
改めて「公」の役割とは何かを考えさせられました。

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